Waves of the Heart

#心 #心理学 #園芸療法 #福祉 #人間 #社会 #寄り添い

ふとした瞬間の喜び、不意に訪れる不安——。人の心は日々揺れ動きます。その変化には、自らに由来する内的な要因と、周囲の環境による外的な要因が複雑に関係しています。兵庫県立大学が取り組む、心の動きの仕組みと影響を多角的に解明し、より良いウェルビーイングの実現を目指す研究をご紹介します。

声なき声に耳を傾けて

井上 靖子教授

環境人間学部所属(研究者情報はこちら

井上 靖子先生

私は臨床心理学を専門とし、臨床心理士?公認心理師として、教育?福祉?医療の現場でカウンセリングに携わってきました。どうしようもできない運命に悩んだ自身の経験から、同じように悩む人々の力になりたいと思い、研究に取り組み始めました。さまざまな生きづらさを抱える人の心の癒しや成長につながるよう、カウンセリングの本質について理論と実践双方の面から探求しています。また、児童養護施設や離島で暮らす子どもたちの支援にも力を入れ、地域の昔話を用いた心理ワークや、大学生と施設の高校生の交流を通じた学びの場作りも行っています。

臨床心理学の魅力は、人の心が想像以上に奥深く、未知の世界であると気づかされるところ。私たちは、自分の意思だけで人生を動かしていると思いがちですが、実は無意識から大きな影響を受けています。カウンセリングを通じて、悩みや困難の本質がだんだんと明らかになっていくことで、それがただの苦しみではなく、自分を成長させるための大切な意味を持っていることに気づくことができるのです。心に深く寄り添うことで、相談者自身の心に癒しや気づきが生まれる過程に立ち会える点に、大きなやりがいを感じています。

研究グッズ

近年、虐待による心の傷や生きづらさに苦しむ人が増えています。家族や周囲の人々から十分な共感を得られず、他人の気持ちを想像する力が育ちにくいことが背景の一つ。また、情報化社会の急速な発展のなかで、心の自然破壊が生じ、現代人が心身の深いところで苦しんでいるのではとも考えられます。個人へのカウンセリングを通じて、人に本来備わっている「自己治癒力」について実践的に研究を深めるほか、自己を肯定でき「生きていてよい」と感じられる心の土台は何か、その土台を創造する力はどこから生まれるのか理論的に検討中。こうした実践と研究を通して、人との関わりの大切さや、現代社会で忘れられがちな心の大切さをこれからも伝えていきたいです。

拡大する研究

植物を介して人が関わり合う時、何が起きているか ?園芸療法の本質を探る?

剱持 卓也講師

緑環境マネジメント研究科所属(研究者情報はこちら

私は、植物を介して人が関わり合うことによる、人の心や社会的な健康への影響を調査、研究しています。園芸療法士としての約20年の臨床経験から、植物を介した関わりが心身の健康に効果的であることを強く実感していますが、園芸療法を受けられる場所はそう多くないという現状があります。そのため、園芸療法や植物との関わりがもたらす効果をわかりやすく示し、活用してもらうことで、よりたくさんの方のウェルビーイングに貢献したいと考えています。

これまでの研究では、植物を介した関わりが、不安の軽減や、意欲や活力を高めることを明らかにしてきました。現在は、植物が人と人とをつなげる力にも注目し、緑のある場所でのコミュニティ形成について研究を進めています。経験的に、植物を介した活動による健康効果は理解されているものの、そのメカニズムはさほど明らかにされていません。植物や自然との関わり方や年齢などによっても反応が異なり、誰にでもよく効くというものではありませんが、人によってはとても大きな効果を示すことがあります。人の心といった精神面への効果を示すことの難しさを感じながらも、自身の研究が生きづらさを抱える人たちにとって役立つ可能性がある点に大きな意義があると思っています。

日本では今後、少子高齢化が進み、医療や福祉の負担増加が予想されます。病気の予防や、心の健康を保つ取り組みの重要性は、ますます高まるばかりです。植物との関わりによる人の精神的健康への効果を提示することは、メンタルヘルス維持のいち手段としての植物を介した活動の活用につながるものです。また、コロナ禍をきっかけに、植物のある暮らしに安らぎを感じる人が世界的に増加したことから、植物と人の健康に関する研究に注目が集まっています。自身の取り組みがこれからの社会課題の解決につながる可能性を信じ、植物を介した関わりがもたらす力について今後も研究し続けていきます。

研究室の植物たち

剱持 卓也先生

注目の人 -Person-

子どもも大人も育つ“居場所”を大切にしたい

子ども食堂の持続的な運営に向けて、スタッフに必要な考え方や資質を研究しています。自身のボランティア経験から、子ども食堂は子どもにとっての居場所であると同時に、スタッフにも生きがいをもたらす場だと実感しました。今後は、スタッフのやりがいを支える仕組みを明らかにし、地域福祉やボランティア支援に役立てたいと考えています。そして心理学の知見を活かし、「支援する側?される側」という立場や世代を超えて互いに支え合える地域づくりに貢献することが目標です。

子どもも大人も育つ“居場所”を大切にしたい

眞部 夏帆さん

環境人間学部 4年

誰もが楽しめる自然観察を目指して

「都市公園で視覚障がい者と共に楽しむ自然観察会」をテーマに、視覚に頼らず誰もが自然を楽しめる場づくりを目指し研究しています。障がいの有無に関わらず「自然を感じる体験」を通して、季節の巡りや生き物の営みを感じ、心豊かな時間を過ごせたらとの思いで、まずは学内観察会に挑戦中です。今後は都市公園で視覚障がい者と共に楽しむ自然観察会を実践し、誰もが都市公園の自然の恩恵を享受できる一歩になればと考えています。

誰もが楽しめる自然観察を目指して

圓山 初美さん

緑環境景観マネジメント研究科 2年
(社会人入学)

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